仮想通貨の税金を考えるうえで、多くの人が最初につまずくのが「利益をどうやって計算するのか分からない」という問題です。
売却価格は分かっていても、「いつ・いくらで買った分なのか」「何回も買っている場合はどう扱うのか」といった点で混乱しがちです。
特に仮想通貨は、同じ銘柄を何度も購入・売却したり、少額ずつ積み立てたりするケースが多いため、取得価額の考え方を理解していないと、正しい利益計算ができません。
ここを曖昧にしたまま確定申告を行うと、計算ミスや申告漏れにつながる可能性があります。
日本の税務上、仮想通貨の利益計算では主に「総平均法」と「FIFO(先入先出法)」という2つの考え方が使われます。名前だけを見ると難しそうですが、ルールと計算手順を分解すれば、初心者でも理解できます。
この記事では、仮想通貨の損益計算をテーマに、まず利益計算の基本構造を整理し、取得価額の考え方を説明したうえで、総平均法とFIFOそれぞれについて具体的な数値例を用いて解説します。
目的は、複雑な税務知識を詰込むことではなく、「自分の取引では、どう計算すればいいのか」
を判断できるようになることです。読み終えるころには、利益計算に対する苦手意識を減らし、
次に何を確認すべきかが見える状態を目指します。
第1章:利益計算の基本
仮想通貨の利益計算を理解するには、いきなり計算式に入るのではなく、まず「税務上の利益とは何か」という基本構造を押さえることが重要です。仮想通貨は値動きが激しく、取引回数も多くなりがちなため、感覚的に判断すると計算ミスが起こりやすい分野です。
この章では、後続章の計算例を理解するための土台として、利益計算の基本ルールを整理します。
仮想通貨の「利益」は差額で考える
仮想通貨の利益計算は、非常にシンプルな構造をしています。
基本は「売却(または使用)したときの価格 − 取得したときの価格」
という差額です。
例えば、10万円で購入した仮想通貨を30万円で売却した場合、利益は20万円になります。この差額部分が、税務上の所得として扱われます。
重要なのは、「いくらで売れたか」だけでなく、「いくらで取得した分なのか」を正確に把握することです。ここが曖昧になると、正しい利益計算ができません。
利益計算は「価値が確定した瞬間」に行う
仮想通貨の利益は、価格が上がった時点で発生するわけではありません。
税務上は、価値が確定した瞬間に利益計算を行います。
価値が確定する代表的なタイミングは、次のような場面です。
- 日本円に売却したとき
- 他の仮想通貨に交換したとき
- 商品やサービスの支払いに使ったとき
これらはいずれも、「円換算できる価格が確定した」と判断されるため、その時点で取得価額との差額を計算する必要があります。
同じ通貨を何度も買っていると計算が難しくなる
仮想通貨の利益計算が難しいと感じられる最大の理由は、同じ銘柄を複数回に分けて購入しているケースが多いことです。
例えば、ビットコインを「10万円で1回目」「15万円で2回目」「20万円で3回目」というように購入している場合、一部を売却したときに「どの価格で買った分を売ったのか」を決めなければ、利益を計算できません。
この問題を解決するために使われるのが、取得価額の計算方法であり、代表的な方法が「総平均法」と「FIFO(先入先出法)」です。
損失が出た場合も計算は必要
仮想通貨を売却した結果、取得価額よりも安い価格だった場合、差額は損失になります。
損失が出ていれば税金は発生しませんが、それでも計算と記録は必須です。
後から税務署から確認を求められた場合、「なぜ課税対象がないのか」を説明できる状態にしておく必要があります。
また、仮想通貨の損失は、給与所得など他の所得と相殺できない点も、初心者が誤解しやすいポイントです。
利益計算の全体構造を図解で整理
ここまでの基本ルールを、利益計算の流れとして整理します。
仮想通貨の利益計算の基本構造
① 取得
- 購入・報酬で入手
- 取得価格を記録
- この時点では非課税
② 確定行為
- 売却・交換・決済
- 円換算が可能
- 価値が確定
③ 利益計算
- 売却価格 − 取得価額
- 差額を算出
- 所得として扱う
ポイント
利益計算の本質は「いつ・いくらで取得した分を、いくらで手放したか」です。
これらの考え方は、国税庁が示している暗号資産の税務上の取扱いを前提としています。
次章では、この基礎を踏まえて、取得価額をどう考えるかを詳しく解説します。
第2章:取得価額の考え方
仮想通貨の利益計算で最も重要かつ混乱しやすいのが、「取得価額をどう考えるか」という点です。売却価格が分かっていても、取得価額を正しく計算できなければ、利益も正確に算出できません。
この章では、総平均法やFIFOを理解する前提として、取得価額の基本的な考え方を整理します。
取得価額とは「いくらで手に入れたか」を示す基準
取得価額とは、仮想通貨を取得したときに支払った金額を指します。
最も分かりやすいのは、日本円で購入したケースです。
例えば、10万円でビットコインを購入した場合、その10万円が取得価額になります。
後に価格が変動しても、取得価額そのものは変わりません。
税務上の利益計算では、この取得価額を基準に、売却時の価格との差額を計算します。
購入方法によって取得価額の考え方は変わる
仮想通貨の取得価額は、「日本円で購入した場合」だけではありません。
次のような取得方法もあります。
- 他の仮想通貨と交換して取得した
- ステーキングやマイニングで報酬として受け取った
- エアドロップで無償取得した
これらの場合、取得価額は取得した時点の時価(円換算)を基準に決まります。
「タダでもらったから取得価額はゼロ」という考え方は誤りです。
複数回に分けて購入した場合の問題点
同じ仮想通貨を何度も購入していると、取得価額の管理が一気に難しくなります。
例えば、同一銘柄を「10万円」「15万円」「20万円」と異なる価格で購入している場合、一部を売却したときに「どの価格の分を売ったのか」を決めなければなりません。
この判断方法として採用されるのが、総平均法とFIFO(先入先出法)です。
取得価額を間違えると税額も大きくズレる
取得価額を実際より低く見積もってしまうと、利益が大きく計算され、結果として税額も過大になります。
逆に、根拠なく高く見積もると、税務上問題になる可能性があります。そのため、客観的に説明できる計算方法を一貫して使うことが重要です。
取得価額の考え方を図解で整理
ここまでの内容を、取得価額の決まり方として整理します。
取得価額が決まる基本ルール
① 取得方法
- 円で購入
- 交換・報酬
- 無償取得
② 評価基準
- 支払額
- 取得時点の時価
- 円換算
③ 取得価額
- 計算の基準
- 後から変更不可
- 利益計算に使用
ポイント
取得価額は「取得した瞬間の価値」を基準に、一貫して管理することが重要です。
取得価額の考え方は、次章以降で解説する総平均法・FIFOの計算結果を大きく左右します。
まずはこの基本を押さえたうえで、具体的な計算例に進みましょう。
第3章:総平均法の計算例
仮想通貨の利益計算で、初心者が最初に理解しやすい方法が総平均法です。
総平均法は、同じ仮想通貨を複数回に分けて購入している場合でも、平均的な取得単価を使って利益を計算する方法です。
この章では、考え方を整理したうえで、具体的な数値例を用いて計算の流れを確認します。
総平均法とはどんな計算方法か
総平均法とは、ある時点までに取得した仮想通貨の総取得金額を総数量で割り、1単位あたりの平均取得価額を求める方法です。
一度平均単価を出せば、その後に売却する際は、その平均単価を取得価額として使うため、「どのときに買った分を売ったのか」を個別に考える必要がありません。
取引回数が多い人や、積立のように定期購入している人にとって、管理しやすい方法といえます。
総平均法が使われる理由と特徴
日本の税務実務では、仮想通貨の利益計算において総平均法が一般的に使われる傾向があります。理由は、計算方法が比較的シンプルで、恣意的な操作が入りにくいためです。
一方で、平均単価を出すためには、その時点までの全取引履歴を把握しておく必要があります。
途中の記録が抜けていると、正しい平均単価を算出できなくなる点には注意が必要です。
総平均法の具体的な計算例
ここでは、次のような取引を行ったケースを考えてみましょう。
- 1回目:10万円で1BTCを購入
- 2回目:20万円で1BTCを購入
- 3回目:30万円で1BTCを購入
この時点での取得状況は、合計3BTC・取得金額は60万円です。
総平均法では、次のように平均取得価額を計算します。
平均取得単価 = 60万円 ÷ 3BTC = 20万円
この状態で、1BTCを40万円で売却した場合の利益は、次のように計算されます。
利益 = 40万円 − 20万円 = 20万円
売却したのが「いつ購入した分か」は関係なく、常に平均単価を基準に計算するのが総平均法の特徴です。
売却後も平均単価は再計算される
総平均法では、売却後に残った仮想通貨についても、再度平均単価を計算し直す必要があります。
先ほどの例で1BTCを売却した後は、残りは2BTC・取得金額は40万円になります。
この時点での平均単価は、
40万円 ÷ 2BTC = 20万円
となり、引き続き同じ平均単価が使われます。
ただし、売却価格や数量によっては、平均単価が変わるケースもあります。
総平均法の計算フローを図解で整理
総平均法による利益計算の流れを、視覚的に整理します。
総平均法による利益計算の流れ
① 取得
- 複数回に分けて購入
- 総数量を把握
- 総取得金額を集計
② 平均単価算出
- 総取得金額 ÷ 数量
- 平均取得価額を算出
- 基準価格を決定
③ 売却・計算
- 売却価格を確認
- 平均との差額を算出
- 利益を計上
ポイント
総平均法は「全体の平均」を基準に、機械的に利益を計算する方法です。
総平均法は、考え方と計算構造を理解すれば、初心者でも扱いやすい方法です。
次章では、もう一つの代表的な方法であるFIFO(先入先出法)について、同様に具体例を用いて解説します。
第4章:FIFO(先入先出法)の計算例
総平均法と並んで、仮想通貨の利益計算でよく登場するのがFIFO(先入先出法)です。
FIFOは「先に取得したものから先に売却したと考える」方法で、取引の時系列をそのまま反映できる点が特徴です。
この章では、FIFOの基本的な考え方を整理したうえで、具体的な数値例を用いて計算方法を確認します。
FIFO(先入先出法)とはどんな考え方か
FIFO(First In, First Out)は、最も早く取得した仮想通貨から順に売却されたとみなして利益を計算する方法です。
総平均法のように平均単価を使うのではなく、「どのタイミングで買った分を売ったのか」を一つずつ対応させていく点が大きな違いです。
取引の流れを直感的に理解しやすい方法ともいえます。
FIFOが使われる場面と特徴
FIFOは、取引履歴が明確で、購入と売却の対応関係を追いやすい場合に向いています。
一方で、取引回数が多い場合や、少額取引を何度も繰り返している場合は、どの取得分が残っているのかを管理する手間が増えます。
そのため、実務では管理負担とのバランスを考える必要があります。
FIFOの具体的な計算例
ここでも、次のような取引を行ったケースを考えます。
- 1回目:10万円で1BTCを購入
- 2回目:20万円で1BTCを購入
- 3回目:30万円で1BTCを購入
この状態で、1BTCを40万円で売却したとします。
FIFOでは、「最初に購入した10万円のBTCを売却した」
とみなします。
この場合の利益は、次のように計算されます。
利益 = 40万円 − 10万円 = 30万円
総平均法では利益が20万円でしたが、FIFOでは30万円となり、同じ取引でも計算方法によって利益額が変わることが分かります。
複数枚を売却した場合のFIFO計算
次に、2BTCを一度に売却した場合を考えてみましょう。
売却価格は1BTCあたり40万円とします。
FIFOでは、次の順序で売却されたとみなされます。
- 1BTC:10万円で取得した分
- 1BTC:20万円で取得した分
それぞれの利益は次の通りです。
- 1BTC目:40万円 − 10万円 = 30万円
- 2BTC目:40万円 − 20万円 = 20万円
合計の利益は50万円になります。
このように、FIFOでは売却数量が増えるほど、計算も段階的になります。
FIFOの計算フローを図解で整理
FIFO(先入先出法)による利益計算の流れを、全体像として整理します。
FIFO(先入先出法)の利益計算フロー
① 取得順を整理
- 購入日時を確認
- 古い順に並べる
- 数量を把握
② 売却と対応
- 売却数量を確認
- 古い取得分から消化
- 取得価額を特定
③ 利益計算
- 売却価格を確認
- 差額を算出
- 利益を合計
ポイント
FIFOは「どの取得分を売ったか」を明確にする計算方法です。
FIFOは直感的で分かりやすい反面、取引回数が増えるほど管理の手間が増します。
次章では、総平均法・FIFOのどちらを使うか迷ったときに、実務上どう考えればよいかを解説します。
第5章:実務で迷ったときの対応
総平均法とFIFO(先入先出法)の計算例を見て、「理屈は分かったけれど、実際の取引では判断に迷いそう」と感じた人も多いのではないでしょうか。実務では、教科書どおりにいかないケースや、記録が不完全な状態に直面することも珍しくありません。
この章では、現実的によくある悩みへの対応方針を整理します。
どの計算方法を選ぶべきか迷った場合
総平均法とFIFOのどちらを使うべきかについて、「税金が安くなる方を選んでいいのか」と疑問に思う人もいます。
結論から言うと、どちらか一方を恣意的に選び続けることはできません。
税務上重要なのは、同一年内で計算方法を一貫して使うことです。
年の途中で有利不利に応じて切り替えることは、認められていません。
そのため、最初に「管理しやすい方法」を選び、その年は最後まで同じ方法で計算する、という姿勢が現実的です。
取引履歴が一部欠けている場合の考え方
過去の取引履歴が完全に残っていないケースも、実務では少なくありません。
特に、古い取引所の履歴が取得できない場合や、ウォレット移動の記録が曖昧な場合です。
このような場合でも、合理的に説明できる根拠を用意することが重要です。
例えば、残っている履歴や当時の相場情報をもとに、取得価額を推定し、その算定方法を説明できる状態にしておきます。
「分からないから計算しない」という対応は、後から問題になる可能性が高いため避けるべきです。
複数の取引所・ウォレットを使っている場合
仮想通貨の取引では、複数の取引所やウォレットを併用することが一般的です。
この場合、利益計算は全体を通算して行います。
取引所ごとに損益を分けて考えるのではなく、「同じ通貨をどれだけ取得し、どれだけ手放したか」という視点で整理することが重要です。
そのため、取引所ごとの損益表示をそのまま使うのではなく、自分で統合した計算表を作る必要があります。
税務署から説明を求められた場合の心構え
万が一、税務署から利益計算について説明を求められた場合でも、過度に恐れる必要はありません。重要なのは、どの計算方法を使い、どんな根拠で算出したかを説明できることです。
総平均法なのかFIFOなのか、なぜその方法を選んだのか、どの資料を基に計算したのかを整理しておけば、大きな問題になることは少ないと考えられます。
実務対応の考え方を図解で整理
最後に、実務で迷ったときの対応方針をシンプルな流れで整理します。
利益計算で迷ったときの対応フロー
① 方法を決める
- 総平均法 or FIFO
- 管理しやすさ重視
- 年内で固定
② 記録を整理
- 取引履歴を集約
- 不足分を補完
- 根拠を残す
③ 説明できる状態
- 計算過程を保存
- 一貫性を維持
- 質問に対応可能
ポイント
完璧さよりも「一貫性」と「説明可能性」が実務では重要です。
仮想通貨の利益計算は、最初から正解が一つに決まっているわけではありません。
重要なのは、ルールを理解したうえで、一貫した方法で計算し続けることです。
次はいよいよ、全体をまとめる結論に進みます。
結論:仮想通貨の利益計算は「取得価額」と「計算方法の一貫性」がすべて
仮想通貨の利益計算は、一見すると複雑に感じられますが、本記事で整理してきたように、考え方の軸は非常に明確です。ポイントは、「取得価額をどう決めるか」と「どの計算方法を一貫して使うか」の2点に集約されます。
まず、利益は「売却(または使用)時の価格」から「取得時の価格」を差し引いた差額で計算されます。この取得価額は、日本円で購入した場合だけでなく、交換・報酬・エアドロップなど、取得した瞬間の時価(円換算)を基準に決まる点が重要でした。
同じ仮想通貨を複数回に分けて取得している場合には、その取得価額をどう扱うかが問題になります。
その代表的な方法が、総平均法とFIFO(先入先出法)です。総平均法は全体の平均単価を使うため管理しやすく、FIFOは取引の時系列をそのまま反映できるという特徴があります。
どちらの方法を選ぶかによって、同じ売却でも利益額が変わるケースはありますが、税務上最も重要なのは「有利・不利」ではなく、同一年内で一貫した方法を使い続けることです。
途中で都合よく切り替えることは認められておらず、後から説明できない計算はリスクになります。
実務では、取引履歴が完全でない、複数の取引所やウォレットを使っているなど、理想どおりにいかない場面もあります。
その場合でも、「合理的な根拠をもとに計算し、説明できる状態を保つ」ことが重要です。
完璧さよりも、一貫性と説明可能性が求められます。
仮想通貨の利益計算は、避けて通れない作業ですが、仕組みを理解し、早めに整理しておけば過度に恐れる必要はありません。本記事を参考に、自分の取引に合った計算方法を選び、落ち着いて損益を把握できる状態を目指してください。
